それからもたびたびアメリカやカナダを訪れては、世界で正当性のある歯科技術や治療哲学を学んできました。そうしているうちに、歯科医療でもすべての分野に精通することの限界を感じてきたのです。お医者さんでも、眼科もできて耳鼻科もできる先生がいないように、たとえば整形外科でも肘の専門、腰の専門の先生がそれぞれいらっしゃると思います。
歯科でも口腔外科、補綴、歯周病等、それぞれ専門分野が存在します。そしてとかく過去の自分も含め日本の勉強をしている歯科医師は、そのすべての分野に精通しようとして、いわゆる「スーパーGP」を目指す先生が多いと感じます。それは、自分が目の前の患者さんの歯の問題を解決してあげたいという想いと、患者さんからの「この先生に治してもらいたい」という想いがあるからだと思います。そのこと自体はよいのですが、場合によって限界もあるのです。イチローがサードやキャッチャーでも一流になれるわけではないことと同じような気がします。
そんな中、自分の琴線に響いたのが「歯内療法」だったのです。それまでその分野のことは、時間のかかる割には治癒率も悪く、失礼ながら魅力のない分野だと思っていたのですが、実は成功率90%以上であるということを目の当たりにして愕然としました。それと同時に、自分もそうなって、できるだけ歯を抜かない、患者さんの歯をなるべく多く残すことができる歯科医師になる、と決意したのです。